日本のDXの行方 ―政府の考えや方針とは

1. DXが話題になっている理由≒浮き彫りになる社会課題

DXとは何でしょうか。DXとは、デジタルトランスフォーメーション(digital transformation)の略です。経済産業省は2018年、DX推進ガイドラインにてDXを下記のように定めています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

つまり、「企業がデジタル技術により変革を起こす」ということです。では、なぜこのDXが今必要とされているのでしょうか。その理由にVUCAと呼ばれる将来の予測が困難な状況が待ち受けていることがあります。VUCAは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字から取った造語で、変動性が高く不確実で複雑、曖昧さを含んだ社会のことを示します。地球温暖化による気候変動や海面上昇、世界的な人口増加、世界経済の不安定など世界中で困難な課題が様々に巻き起こっています。

さらに、日本では近年様々な社会課題が話題になっています。少子化、人口減少、労働人口減少、など独自の課題も山積みです。予測できるものできないもの問わず、現代~未来を生きる私たちには数々の困難が待ち受けているのです。

そこで必要となる概念がDXなのです。DXを行うことで、予測不能なVUCAの時代を生き抜き、数々の悲痛な社会課題を解決に向かわせることができるのです。企業の大きさや年商、従業員数は関係ありません。淘汰し淘汰される社会の中でより長く生き延びるために、DXは今注目されているのです。

2. 政府の方針

経済産業省は、DXの推進に向けて企業や経営者が実施すべき事項を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめ、すべての事業者を対象とした取組推進のための羅針盤として活用するように促しています。企業の規模ごとに、DXレベルに応じた企業認定や優良企業選定を毎年行っています。

出典:経済産業省ウェブサイト

政府がDX推進に真剣に取り組んでいるのには理由があります。2018年9月に経済産業省は「DXレポート」にて「2025年の崖」というキーワードを出し、将来待ち受けるであろう深刻な問題に関して警鐘を鳴らしました。このレポートの中では次のように述べられています。

 「老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムが残存した結果、維持管理費の高騰やIT人材不足が進み、ITシステムの運用・保守の担い手不在から多くの技術的負債を抱えるとともに、業務基盤そのものの維持・継承が困難になることで、2025年以降年間で最大12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性がある

日本のITは、時間とお金をかけて高品質なシステムをウォーターフォール型に構築してきたまさに「ガラパゴスIT」です。高コストで汎用性のないこれらのシステムは、企業独自の一システムの粋を超えることができませんでした。これを抜本から変革し、「経営の理解と明確なビジョンの打ち出し」「レガシーシステムからの脱却」「IT・DX人材の確保・育成」に対応していくことが、日本のDX推進には急務です。2021年9月に日本全体のデジタル化を主導することを目的とした「デジタル庁」が創設された背景にも、この日本のデジタル化の後れに向けた対策の意図があります。

3. 日本のDXの立ち位置

DX推進に国を挙げて取り組んでいても、現在の日本がDX後進国であることに変わりはありません。2022年9月に、スイス国際経営開発研究所によって「世界のデジタル競争力ランキング2022」が発表されました。このランキングは、63カ国・地域のIT分野の競争力を「知識」「テクノロジー」「将来への準備」の観点から評価したもので、日本は29位と過去最低の結果となりました。東アジアの国と地域で比べても、韓国が8位、台湾が11位、中国が17位と日本を大きく突き放しています。さらに、各国は前年よりもランクを上げる中、日本は4ランクダウンしています。

各国から遅れをとった日本のデジタル競争力低下の原因は、デジタルに関する優秀で国際経験のある人材不足や企業の意思決定の遅さ、データ流通の後れなどです。さらにサイバーセキュリティ対策はVUCAの時代における脅威として、身長に取り組む必要があります。これからの企業のDXの取り組み方が、今後の日本のデジタル競争力に影響を与えることは間違いありません。